詩と詩人
詩の基礎知識

【英詩入門】ソネットの​書き方​・種類・歴史を​わかりやすく​解説

公開日 • 更新日 15 min read
羽根ペンのカラスと譜面台の原稿。八行と六行の間に転換を持つソネットを示す

はじめに

こんにちは、クロイツェルです。

シェイクスピアの美しい愛の詩を、英語のまま味わってみたいと思ったことはありませんか?今日は、英詩の世界で最もポピュラーな定型詩「ソネット」の世界を一緒にのぞいてみましょう。

俳句や短歌に「五・七・五」という決まり事があるように、ソネットにも「14行で書く」などのルールがあります。一見窮屈に思えるその制約こそが、世界中の詩人たちに自由で美しい表現を生み出させてきました。

この記事では、専門用語に圧倒されることなく、ソネットの魅力とリズムを体感できるよう、順を追って解説していきます。

この記事の流れ

本稿では次のステップでソネットの世界を旅します。気になるところから読み進めてもOKです。

  • ソネットとは? ―― 14行の魔法と、途中で視点が変わる「ヴォルタ」
  • リズムを体感しよう ―― シェイクスピアの詩で味わう「弱強五歩格」
  • ソネットの種類 ―― 3つの定番スタイル(イタリア式/英国式/スペンサー式)を比較
  • 現代のソネット ―― 20世紀以降の「変形」スタイル
  • 日本におけるソネット受容史 ―― 明治から現代への挑戦

ソネットとは?(2つの基本ルール)

ソネットは、一つのテーマやアイデアをギュッと閉じ込めるミニマルな詩です。ソネットという名前は、イタリア語の「sonetto(小さな歌)」という言葉から来ています。

13世紀のシチリアで生まれ、イングランドに渡ってシェイクスピアが大ブームを巻き起こしました。ソネットを楽しむために、まずは以下の2つの基本ルールだけを押さえておきましょう。

用語集:ソネットの定義・型比較はこちら

  1. 14行から成る
    どんなソネットも、基本的には14行で構成されています。
  2. 途中で視点がガラッと変わる「ヴォルタ」がある
    伝統的なソネットでは、8行目付近や12行目付近で、詩のトーンや視点が切り替わります。この転換点を「ヴォルタ(Volta)」と呼びます。音楽における「転調」のようなもので、詩にドラマチックな展開をもたらします。

リズムを体感しよう(弱強五歩格)

14行というルールに加えて、英語圏のソネットにはもう一つ重要な「韻律(meter)」の決まりがあります。それが弱強五歩格(アイアンビック・ペンタメーター)です。

難しそうな名前ですが、ざっくり言えば「タッ|タタッ|タッ|タタッ|タッ」という、心臓の鼓動のようなリズムを14行続けるイメージです。

具体的に、世界で最も有名なソネットである、シェイクスピアの〈ソネット18番〉を見てみましょう。「弱 → 強、弱 → 強」とアクセントが波打つように展開されます。ぜひ、声に出して読んでみてください。

ソネット18番(原文+日本語訳)

原文

Sonnet 18

William Shakespeare

Shall I compare thee to a summer's day?

Thou art more lovely and more temperate:

Rough winds do shake the darling buds of May,

And summer's lease hath all too short a date:

Sometime too hot the eye of heaven shines,

And often is his gold complexion dimm'd;

And every fair from fair sometime declines,

By chance or nature's changing course untrimm'd;

But thy eternal summer shall not fade

Nor lose possession of that fair thou owest;

Nor shall Death brag thou wander'st in his shade,

When in eternal lines to time thou growest:

So long as men can breathe or eyes can see,

So long lives this, and this gives life to thee.

日本語訳

ソネット18番

シェイクスピア(日本語訳)

君を夏の日に喩えようか

君はより美しくたおやかだ

激しい風が5月のつぼみを揺らせば

夏の約束はあまりに短い

ときに日差しはあまりに強烈で

ときに輝く表情を曇らせる

そう、すべての美しいものはいつかその美を失う

偶然か、自然のもたらす変化によって

それでも、貴方の永遠の夏は色褪せることなく

貴方の美を損なうこともない

死でさえも、あなたがその影をさまようと触れ回ることはできない

あなたは、「詩」という永遠の中で生き続けるのだから

人が息をして、目が見える限り

この詩が生き続け、貴方にいのちを吹き込む限り

いかがですか?心地よいリズムを感じられたでしょうか。

この「Shall I compare...」の1行を例に、英詩の基本的なリズム構造を図解してみます。

Shall I compare thee... のアクセント構造
  • 音節(syllable):言語の音の区切り(例:the は1音節、compare は2音節)
  • ストレス(アクセント):強く発音される音節
  • 韻脚(foot):音節を2つまとめたもの(図の箱2つ分)。「無・ス(弱・強)」の韻脚が5つ並んで1行ができているため、「弱強五歩格」と呼ばれます。

弱強五歩格についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事で音読練習の方法も含めて解説しています。

【英詩入門】弱強五歩格を日本語で理解する(iambic pentameter)

ソネットの種類(3つの定番スタイル)

基本がわかったところで、ソネットの「種類」を見ていきましょう。14行という包み紙は同じでも、中身の折りたたみ方は国や時代で千差万別です。ここでは「イタリア式」「英国式」「スペンサー式」という定番3スタイルを比較してみます。

  • イタリア式(ペトラルカ式) / 8行+6行 / ABBA ABBA / CDE CDE / 8行目と9行目の間
  • 英国式(シェイクスピア式) / 4行×3+2行 / ABAB CDCD EFEF / GG / 12行目と13行目の間(最終2行の前)
  • スペンサー式 / 4行×3+2行 / ABAB BCBC CDCD / EE(連鎖韻) / シェイクスピア式と同様

1. イタリア式(ペトラルカ式)

ルーツは13世紀イタリア。ペトラルカが磨きあげた形なので「ペトラルカ式」とも呼ばれます。

  • 8行で問題提起(Octave)+6行でオチ(Sestet)
  • 押韻は ABBA ABBA / CDE CDE(後半はバリエーションあり)
  • ヴォルタはきっちり8行目後、つまり真ん中で気分を切り替える

八行詩で「うわ〜どうしよう」と盛り上げて、六行詩で「いや待て、こう考えよう」と着地するイメージですね。

ペトラルカ式ソネットの例

ジョン・ミルトンの「我が光の失せしを思う時」(When I consider how my light is spent)は、ペトラルカ式ソネットの代表的な例です。八行詩(Octave)で問題提起(失明による絶望)をし、六行詩(Sestet)で解決(神への奉仕の形)を提示する構成になっています。

When I consider how my light is spent

John Milton

When I consider how my light is spent,

Ere half my days, in this dark world and wide,

And that one Talent which is death to hide

Lodged with me useless, though my Soul more bent

To serve therewith my Maker, and present

My true account, lest he returning chide;

"Doth God exact day-labour, light denied?"

I fondly ask. But patience, to prevent

That murmur, soon replies, "God doth not need

Either man's work or his own gifts; who best

Bear his mild yoke, they serve him best. His state

Is Kingly. Thousands at his bidding speed

And post o'er Land and Ocean without rest:

They also serve who only stand and wait."

日本語訳

我が光(視力)がいかに尽きたかを思うとき、

人生の半ばも過ぎぬうちに、この暗く広い世界で。

そして、あの隠せば死にも等しい一つの才能(タラントン)が

私の中に役立たずのまま宿っているのを思うとき――私の魂は、

それをもって創造主に仕え、主が戻られたときに叱責を受けぬよう

我が真の報告をしたいと、より強く願っているにもかかわらず。

「神は、光を奪っておきながら、日々の労働を要求されるのか?」

と私は愚かにも問う。だが「忍耐」が、その呟きを制するように

すぐにこう答える。「神は人の働きも、神自身の賜物(の返礼)をも

必要とはされない。神の穏やかな軒(くびき)を最もよく負う者こそ、

最もよく神に仕える者なのだ。神の国は王のよう。

その命により、幾千もの者たちが陸を海を休みなく駆け巡る。

ただ立ち、待つだけの者もまた、(神に)仕えているのである。」

2. 英国式またはシェイクスピア式ソネット

エリザベス朝時代のイングランドで発展したシェイクスピア式ソネットは、以下で構成されます。先ほど読んだ〈ソネット18番〉もこれにあたります。

  • 三つの四行連: ABAB CDCD EFEFの韻律法を持つ4行ずつの3つの連。各四行連はテーマやアイデアを独自の方法で展開します。
  • 二行連: GGの韻律法を持つ最後の2行の連。この二行連は多くの場合、結論、解決、または意外な展開を提供します。

シェイクスピア式ソネットの「ヴォルタ」は通常、最後の二行連の前に現れます。

3. スペンサー式ソネット

英国の詩人エドマンド・スペンサーにちなんで名付けられたこの形式は、シェイクスピア式ソネットの変形です。三つの四行連と二行連の構造を維持していますが、押韻パターンが「ABAB BCBC CDCD EE」と前の連の韻を引き継ぐ「連鎖韻」になっています。これにより、詩全体に滑らかな連続性が生まれます。

スペンサー式ソネットの例

エドマンド・スペンサーの『アモレッティ』(Amoretti) からソネット75番を見てみましょう。このソネットは、連鎖韻 (ABAB BCBC CDCD EE) の特徴がよく表れています。

原文 (Amoretti 75)

Amoretti 75

Edmund Spenser

One day I wrote her name upon the strand, (A)

But came the waves and washed it away: (B)

Again I wrote it with a second hand, (A)

But came the tide, and made my pains his prey. (B)

"Vain man," said she, "that dost in vain assay, (B)

A mortal thing so to immortalize; (C)

For I myself shall like to this decay, (B)

And eke my name be wiped out likewise." (C)

"Not so," (quod I) "let baser things devise (C)

To die in dust, but you shall live by fame: (D)

My verse your virtues rare shall eternize, (C)

And in the heavens write your glorious name: (D)

Where whenas Death shall all the world subdue, (E)

Our love shall live, and later life renew." (E)

日本語訳

ある日、私は彼女の名を砂浜に書いた、

だが波が来てそれを洗い流した。

再び、私はそれを二度目の手で書いた、

だが潮が来て、私の苦労を餌食とした。

「虚しい人」と彼女は言った、「虚しく試みるのですね、

死すべきものを不滅にしようとするなんて。

私自身もこれと同じように朽ち果て、

私の名も同じように消し去られるでしょう。」

「そうではない」と私は言った、「卑しいものは

塵となって死ぬように定められているが、あなたは名声によって生きるだろう。

私の詩があなたの稀なる美徳を永遠のものとし、

天にあなたの輝かしい名を書き記すだろう。

死が全世界を征服するときも、

私たちの愛は生き続け、後の世に蘇るだろう。」

ソネット以外の詩の形式(オード、バラッドなど)については、用語集でまとめて確認できます。

用語集:詩の形式

現代のソネット

20世紀に入ると、エドナ・セント・ヴィンセント・ミレー、ロバート・ローウェル、W.H.オーデンなどの詩人たちが、ソネットをさらに進化させました。

彼らは、韻を踏まない「無韻のソネット」や、6行が8行より先に来る「逆転ソネット」など、伝統的なルールを打ち破る実験的な作品を生み出しています。これらの現代的な変形は、イタリア式と英国式ソネットの違いよりも極端です(詳しくはまた別の記事で)。

日本におけるソネット受容

最後に、日本語とソネットの関わりについて触れておきましょう。英語と日本語はまったく異なる言語ですが、日本の詩人たちもこの「14行」という形式に魅了されてきました。

日本でソネットという14行詩形が本格的に紹介されたのは、明治期の翻訳ブームに端を発します。当時の詩人・翻訳家たちは、西洋近代文学とともにソネットを「新しい韻律の実験場」とみなし、日本語というまったく異質な言語にどう適応させるかを試行錯誤しました。

明治〜大正:翻訳と「詩形の移植」

  • 上田敏『海潮音』(1905年):ペトラルカやボードレールのソネットを14行で訳しつつ、押韻は排して七五調や口語のリズムを用いた。(筆者の海外詩との出会いはこの『海潮音』でした)
  • 島崎藤村『若菜集』(1897年):近代日本初の「自作」ソネットとされる〈曠野に立ちて〉を発表。弱強五歩格を模倣できないため、五七調と自由律を組み合わせた。
  • 北原白秋『邪宗門』『思ひ出』(1910年代):音楽的な日本語を追求し、韻脚を「同音母音+語末子音」で近似させる「準押韻」を提案した。

昭和:形式探求とモダニズム

昭和初期になると、モダニズム詩人たちが欧米の新古典主義と交差する形でソネットを再評価しました。

  • 中原中也はイェイツに触発され、14行を保ちつつ脚韻を放棄したソネットを試作。
  • 堀口大学の仏詩訳は、アレクサンドラン12音節を7–5調に割り振る手法で、翻訳と創作の境界を曖昧にしました。
  • 1930年代には『詩と詩論』誌が特集を組み、ソネット=西洋的教養というイメージが定着します。

日本語でソネットを書くときの課題

  1. 音節 vs. モーラ問題 — 英語の syllable は日本語の拍と一致しないため、5–7拍×2=12拍で弱強五歩格を近似するなど、代替指標が必要。
  2. 押韻の希薄さ — 日本語は語末母音が同質化しやすく、脚韻の区別が難しい。準韻(半母音韻)や語彙反復で代替する手法が主流。
  3. 表記体系 — ひらがな/カタカナ/漢字の混在が視覚リズムを阻害しうる一方、視覚芸術としての自由度を生む。

ソネットは「輸入文学形式」の枠を超え、日本語の詩作においても制約が産む自由を体現してきました。14行という器をどう響かせるか。その挑戦は現在も続いています。

おわりに

構造化された形式と表現の可能性を持つソネットは、今でも世界中で愛される詩の形式です。

13世紀のシチリアから始まり、シェイクスピアを経て現代に至るまで、ソネットは「14行」という限られた空間の中で、数え切れないほどの感情やドラマを描き出してきました。

次に英語の詩を読むときは、ぜひその「リズム」や「ヴォルタ(視点の切り替え)」に注目してみてください。きっと、言葉の奥にある詩人の鼓動が聞こえてくるはずです。

おすすめの一冊

読み終えたら

気になる言葉をたどる。